蛍
Fireflies
注目ポイント
蛍ほたる
山川秀峰(やまかわ・しゅうほう)|昭和2年(1927)|絹本着色・四曲一隻
夕闇迫る野辺で、団扇を片手に蛍を追う三人の美女が、清楚に描かれている。また、淡く渋めの色合いの着物を、濃い目の色の帯に金色の柄や紅い裏地などを添えることで引き締め、色彩のバランスを計っている。この作品の特徴は、夕涼みの蛍狩りというリラックスした場面で、女性たちの目や手の仕草から感じられるほのかな色気であると言えるだろう。一方で、和装の女性たちは背筋を伸ばし、凛とした表情が写実的に描かれているため、過去の風俗を描いたというよりも、モダンな雰囲気が漂う。本作で描かれた女性たちの顔立ちは、いずれも似通っているが、一説には美人の誉れ高かった秀峰の夫人がモデルであったと言われている。
昭和2年(1927)第8回帝展に出品された本作は、現在知られる秀峰作品の中でも出色のものである。美人画家としての声望を高めた秀峰は、翌年第9回展に≪安倍野≫を、5年第11回展に≪大谷武子姫≫を出品し、特選を受賞した。
秀峰とともに昭和を代表する鏑木清方に学び、“清方門下の三羽烏”などと称された伊東深水は、大正期の文、帝展の様子を「当時(鏑木)清方先生始め、池田輝方、(池田)蕉園、(河崎)蘭香、(栗原)玉葉、関西の上村松園、北野恒富と云つたやうな諸先輩が描いた婦人風俗画が、文展を賑はし、其画風を景欽する作家がさかんに輩出されまして、或る年の文展などは美人の絵が満場を圧するの概(あらまし)を呈した事がありました。今日の美人画なる名称は、蓋(けだ)し此の時あたりに起つたものかと考へられます。」と述懐し、当時の美人画家たちの活躍を誇らしげに語っている。秀峰も深水も、これら先輩画家とともに、大正から昭和初期の美人画の隆盛の一端を担い、その近代化の道を探っていた。
夕闇迫る野辺で、団扇を片手に蛍を追う三人の女性たちが清楚に描かれています。描かれた女性たちの顔立ちは皆似ており、すべて秀峰の夫人がモデルだったと言われています。
女性たちは三人とも淡く渋めの色合いの着物を着て、これに濃い色の帯や金色の柄、紅い裏地を添えて色味を引き締め、色彩のバランスを取っています。
この作品のタイトルは≪蛍≫にもかかわらず、はっきりと目視で確認できる蛍は画面右下の一匹のみです。三人の女性たちの目線の先にはたくさんの蛍が飛んでいるのかもしれません。
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